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2010年12月 6日 (月)

お屋敷と蓄音機 ② ~日本の近代建築~ 

11/29 旧安田邸での蓄音機コンサートにいってきました。その話の続きです。

古い建物だから防寒をしっかり、という南陀楼さんの忠告を素直に聞いて、
タートルネックのセーターの上にマント型のコートを羽織り、バッグには膝掛けとストールという装備。
電車内は暖房が聞いてて、千駄木の駅に降りたときは、涼しさのあまりホッとしたくらい。

地上に出るともうすっかり暗くなっています。小腹もすいてきたので、
交差点の角の雰囲気ある喫茶店【千駄木倶楽部】に入ります。
シアトル系にも行きますけど、どちらかといえばこういうお店がすきです。
チーズケーキとコーヒー(五番)でヒトゴコチ。ふう。やっぱり東京は遠いなぁ。

団子坂を上り、右に曲がると街灯もささやかで、ちゃんと会場にたどりつけるのか
不安がよぎりますが、隣の特養ホームがいい目印になってくれました。

大きな木のある前庭、明るく照らされた受付で名前を告げると、
プログラムと手荷物預り用の番号札が手渡されます。
玄関の沓脱ぎ石があまりに立派で、そこに靴を脱いで上がろうとしたわたしは、
スタッフに「ここまで靴でいいんですよ」と言われてしまうのでした。ちょっと恥ずかしい。
でも実際、ここだけでひとり暮らしできそうなくらい広い玄関なのです。

黒光りする床材や柱。建具の美しい細工。
庭に面してずらりと並んだ、歩くと揺らいで見える板ガラス。
大正7年上棟ですから、岩崎俊弥が旭硝子を創設して10年ちょっと。
ようやく国産品が出回るようになったころではないでしょうか。
伝統の職人技と当時の最先端技術が随所に取り入れられて、見どころ満載のお屋敷です。
お庭では山茶花かなにかが、白い花をたくさんつけています。でも、暗くてよく見えない。
庭も見たいし、外からもお屋敷を見てみたい。こんどは昼間に来なきゃ。

演奏会場となる応接室は、洋間とはいえわりとシンプルです。
柱の上部に施された彫刻や天井の漆喰装飾は、
これまでに見てきた旧朝香宮邸や旧前田侯爵邸などの、
いわゆる洋館のものとは違う印象を受けました。

外観は和風で統一されたお屋敷の一室であるということもありますが、
施主の藤田好三郎氏は、財力にものを言わせて豪華なものを見せびらかしたり、
腕のいい職人たちを集めて好き勝手に奇をてらったものをつくらせるような普請道楽ではなく、
地に足のついた理想の家族像を持ち、そこを目指して生活するための場としてここを設計したのでしょう。

さて、洋間の前方に据えられている、高さ1メートルくらいの四角い木の箱が今夜の主役、1910年代の米国製蓄音機です。
蓄音機のトレードマークともいうべきラッパはなく、天板はピアノのようにつっかい棒で支え、
正面の2段になった扉が観音開きになっていて、レコード収納棚を備えた家具調タイプのものでした。

蓄音機を囲むように、最前列に座布団、つぎに低いイス、スタッキングできる背もたれのないイスが並んでいます。40席ほどあるでしょうか。
壁際の重厚なソファは、ここの調度品のようです、臙脂のいい色にくすんでいます。
草色というか、オリーブグリーン系の色のカーテンはなんと、創建当時のものがそのままだそうです。

頭まで寄り掛かれる大きなソファに、すでに何人かの先客が。
わたしは蓄音機に向かって左手壁際の背もたれのないイスを選びました。
持参のひざかけをイスに敷き、コートはスカートのように巻きつけ、肩にストールという防寒態勢。
使い捨てカイロも配られていましたが、栃木の冷え込みに比べれば、やはり東京はあったかいのです。

              * * * * * コメントへつづく

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コメント

ここから先はコメントで失礼します。

プログラムに入る前に、蓄音機の説明をしておきましょう。

旧安田邸の蓄音機は1923年米国ビクター・トーキング・マシン社製のビクトローラ。
進化の途上でラッパ(ホーンと呼ぶんだそうです)が本体内に格納されるようになり、
輸出が容易になったのだそうで、わたしがレコード棚だと思った部分の上半分は
内蔵されたホーン、つまりスピーカーだったというわけです。
【音の暴力装置】という言い方を、毛利さんはされてましたが、
むしろ電気をまったく使わずにこれだけ大きな音が出せる蓄音機って、
素晴らしくエコなんではないでしょうか。

さていよいよコンサートの始まりです。南陀楼さんに紹介されて毛利さん登場。
オープニングは《御大典行幸実写》という、昭和3年の天皇即位礼の行列を実況した、お堅いニュース口調のレコード。
これは、記録用なのでしょうか。それとも販売用?
むかし映画館でニュース映画を流していたように、ラジオなんかでこういうのを放送したりしてたのかもしれませんね。

次に、ちょうどその頃の新譜だという《アラビアの歌》
♪こーいびとーよなっつかぁしぃ~ うーたをうーたおぅよ~
昭和40年代ぐらいまでの生まれのひとはぎりぎり、どこかで耳にしたことがあるかもしれません。
親が懐メロ番組好きだったとか、おばあちゃんが洗濯物たたみながら口ずさんでたとか。

これは、戦前のジャズ歌謡といえばこの人という、二村定一がうたう、打って変わって軽快なディキシー調の曲です。
雰囲気は対照的ですが、新しい時代の予感というか、ある種の明るさを感じます。

同時代のこういう対比は、おもしろいですね。
何十年か後に、例の漁船の流出画像とAKB48のPVとを見比べるような感覚なのでしょうか。

⇒さらにつづく

投稿: 読み書き堂 | 2010年12月16日 (木) 13時19分

続いてやはり同じころに流行った《君恋し》ですが、
歌っているのがカフェータイガーという店の、人気女給よう子とすみ子。
「じょきゅう」というのがすでに死語?すなおに訳せばウェイトレスでしょうが、
どっちかっていうとこの女給はホステスに近いんじゃないかと。
ん~そういうとちょっと抵抗があるかな。。。あの、芸者さんがけっこうレコード出してましたよね、市丸さんとか、
むしろああいう感じなのかなとおもいます。
レコード出すくらいだから相当な人気者だったんでしょう。いまでいえば、、、パフィー?マナカナ?
ところが聴いてみると低い声で、張り上げるような歌い方に会場からは失笑が漏れます。
「お婆さんみたいですけど、10代です。売れっこだったんですよ」という毛利さんのフォローに、かえって爆笑。これで一気に場が和みました。
ステージや演台のない場の雰囲気も相俟ってか、毛利さんのテンポにみんなうまく乗っています。

歌声に興味が集中して、あまり目立たなかったピアノだけのシンプルな伴奏、、、
次は同じ《君恋し》を6人編成のバンドが演奏し、二村定一が歌うバージョンです。
どちらも昭和4年に発売されたものですが、全く印象が違います!
聴くほうも衝撃だったでしょうけれど、レコーディングが、さぞかし革命的な変化を遂げたことでしょう。

続く二村ワールドは《ヅボン二つ》と《百萬円》という、対照的な二曲。
まず「ヅボン」という表記が不思議ですね。ぱっと見、「図星」かと思っちゃいました。
へえ、むかしはこう書いたの?たぶん、背広とかと一緒に入ってきた外来語でしょ、
先にこの表記があって、いつ頃ズボンになったのかしら。とかそういう、音楽とは関係ないところまで気になりだし、、、

それはさておき、この曲。歌詞が、もうとびきりにくだらなくておもしろい。
かたや「人のふところなんか うらやむことはない どんな富豪もズボンふたつはいてるわけじゃない」と、貧乏を笑い飛ばしたかと思えば、
後者は「百万円拾ったら 毎晩銀座のカフェーで 女給にチップを」と歌っています。
最後はそれでいく日遊べるか計算してて目が覚める。あほらしいですね~、って自分で歌っちゃう。
格差があっても、それなりにいい時代だったんですね。。。
いまの日本が忘れてしまったものが、ここにはあるような気がします。

さて、その後も毛利さんの緩急自在なトークに乗せて、懐かしくて新しい日本のジャズの歴史が紐解かれてゆきます。
《キッスOK》という、えらく開放的な歌に戦前のイメージが崩れたり、
天使のように無垢だったはずの童謡少女歌手が、おませになってしまった《あたし大人》に衝撃を受けたり。

そうそう『涙そうそう』の森山良子の父、森山久も紹介されます。
なんと、直太郎のおじいさんはジャズメンの草分けだったんですね~。

初期の、舶来品をみそとしょうゆで味付けしていたような時代から、
輸入素材で一気に本場の味に近づいたともいえる、ハーフ歌手大活躍の時代へ。
ドリー藤岡の《懐かしの河畔》や、ディック・ミネの《ダイナ》などか紹介されていきます。

毛利さんは一曲ごとにレコードを替え、針を替えて次の曲をかけます。
CDがレコードに取って代わり、さらにダウンロードへと移行しつつある昨今、
レコード、蓄音機の愛好家たちにとっては、いかに《針》の消耗を防ぎ長持ちさせるかが、とても重要な課題だろうと思われます。

⇒さらにさらに続く

投稿: 読み書き堂 | 2011年3月 7日 (月) 20時59分

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