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2010年5月 6日 (木)

陸の本、リチの壁紙。(感想編)

『私の家では何も起こらない』恩田陸
(メディアファクトリー 幽ブックス )

こちらは内容について。

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丘の上に建つ一軒の幽霊屋敷が、十章すべての舞台である。
一話完結でありながらも重なる部分があり、少しずつ、この幽霊屋敷の歴史が浮かび上がる。
出だしから薄気味の悪い話もあれば、さわやかな口調で展開する話もある。
途中で「そういうことだったのか」と、背筋が寒くなることも1度や2度ではない。

語り手が子供であったり、熟練の料理女だったり、大工の父子だったり。
これだけ話を拡げておいて、ちゃんと最後には一つ所に収束していく。
なんとも見事なバリエーションと構成力である。

忌まわしい出来事が繰り返されてきたこの屋敷に、なぜ人は惹かれるのか。
そもそもなぜ、この丘の上の家では、不思議で怪しくて哀しいことが次々と起こるのだろう。

幽霊屋敷をめぐる物語は、やがて先史時代までさかのぼったかと思うと、深遠なる精神世界へ飛翔する。
血の滴る《痛い》お話から、肉体を超えた生命や人類全体の思い出の物語へと。

恩田作品を読むのは、『蒲公英草紙 常野物語』以来、2作目となる。
あれはファンタジー色が強かったが、これはミステリどころか、
確実にホラーの領域に踏み込んでいると思われる。

とはいえ、時の流れと人の営みとに目を向けているところは共通している。
いつの時代も変わらない、人間の背負っている「業」みたいなものを描こうとしているのだろうか。

最後の章に書かれた壁紙のイメージは、すっかりリチの《ソラマメ》になってしまった。
時を経て、いっそう人を惹きつけるあの鈍い輝き、幻想の中をさまようような、
非現実的でありながら生命感あふれる図案。
瞬きした隙にツルは伸び、風の吹いてきた方を見ている間にソラマメも揺れているに違いない。

恩田さん、もしくは名久井さんがあの展覧会を観たのかどうかわからないし、
リチの壁紙を知らなくてもこの本は十分に楽しめるが、
装丁に使われた壁紙の、本物を見ておいてよかったと、つくづく思う。
書物との出会いは、こんなところにもある。

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