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2010年5月

2010年5月31日 (月)

平台観察 (表紙は語る)

平台というのは、文字通り、本を平らに置く台です。
棚に差した本は、背表紙しか見えませんが、平台に置くと、表紙が見えます。
本屋では、新しい本、話題の本、たくさん売れてほしいと思う本を、平台に置くのです。
つまり本屋の一等席。

さて、いまうちの文芸平台で、人気女性作家の新作が並んでいます。
江國香織さん『真昼なのに暗い部屋』(講談社)と
川上弘美さん『パスタマシーンの幽霊』(マガジンハウス)。
装丁好きのわたしの触角をくすぐる2点です。

ここでは装丁だけを味わってみたいと思います。

①『真昼なのに暗い部屋』

ピンクのバラがきれいで、インパクトありますね。
でもよく見ると、真ん中の絵がちょっと怖い。
踊る女性にまとわりつく羽根のある怪物。西洋絵画によく出てくる悪魔のイメージそのままです。
この絵を対角線で留めたピンのように、中輪で花弁の多いクラシックなタイプのバラが
右上に1輪、左下に2輪。スクラップブッキングのお手本のようなレイアウトです。

絵はゴヤの「おまえは逃れられまい」という作品らしいです。
帯に「せめて、ちゃんとした不倫妻になろう」とあります。
女を誘惑する(どっちが誘惑しているのかわからないけれど)悪魔は、
恋愛したいという欲望の象徴なのでしょうか?

②『パスタマシーンの幽霊』

こちらは対照的に、至極あっさりとしています。
生成りの地に、トマト色やホウレンソウ色のパスタが踊り、
パスタと一緒に、タイトル文字、著者名まで踊ってます。
例えるなら、メニューはシンプルだけど素材には凝ってる自然派レストランの、
看板のようですね。

タイトルをこんな風にいじることって、一昔前というか、
活字を使っていたころにはあり得なかったんじゃないかと思います。
ブックデザインも、自由になったもんだ。

ふたつをこうして 並べているだけで、ページを開かなくても、
なんとなくどんな雰囲気の内容なのか、伝わってきます。
でも、棚に差してある状態だと、お客さんが手にとるまで、表紙は見えません。
苦労して作り上げた表紙をなるべく多くの人に見て、手にとってもらいたい。

だから出版社さんは競って「平台で展開してください!」と
本屋にお願いするわけです。。。

ちなみに①の装丁は名久井直子さん
②のほうはアリヤマデザインさんです。

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2010年5月 8日 (土)

飛行機雲だー

飛行機雲だー
だから?

いやべつに
ちょっとうれしいかなぁと思って…

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2010年5月 6日 (木)

陸の本、リチの壁紙。(感想編)

『私の家では何も起こらない』恩田陸
(メディアファクトリー 幽ブックス )

こちらは内容について。

******

丘の上に建つ一軒の幽霊屋敷が、十章すべての舞台である。
一話完結でありながらも重なる部分があり、少しずつ、この幽霊屋敷の歴史が浮かび上がる。
出だしから薄気味の悪い話もあれば、さわやかな口調で展開する話もある。
途中で「そういうことだったのか」と、背筋が寒くなることも1度や2度ではない。

語り手が子供であったり、熟練の料理女だったり、大工の父子だったり。
これだけ話を拡げておいて、ちゃんと最後には一つ所に収束していく。
なんとも見事なバリエーションと構成力である。

忌まわしい出来事が繰り返されてきたこの屋敷に、なぜ人は惹かれるのか。
そもそもなぜ、この丘の上の家では、不思議で怪しくて哀しいことが次々と起こるのだろう。

幽霊屋敷をめぐる物語は、やがて先史時代までさかのぼったかと思うと、深遠なる精神世界へ飛翔する。
血の滴る《痛い》お話から、肉体を超えた生命や人類全体の思い出の物語へと。

恩田作品を読むのは、『蒲公英草紙 常野物語』以来、2作目となる。
あれはファンタジー色が強かったが、これはミステリどころか、
確実にホラーの領域に踏み込んでいると思われる。

とはいえ、時の流れと人の営みとに目を向けているところは共通している。
いつの時代も変わらない、人間の背負っている「業」みたいなものを描こうとしているのだろうか。

最後の章に書かれた壁紙のイメージは、すっかりリチの《ソラマメ》になってしまった。
時を経て、いっそう人を惹きつけるあの鈍い輝き、幻想の中をさまようような、
非現実的でありながら生命感あふれる図案。
瞬きした隙にツルは伸び、風の吹いてきた方を見ている間にソラマメも揺れているに違いない。

恩田さん、もしくは名久井さんがあの展覧会を観たのかどうかわからないし、
リチの壁紙を知らなくてもこの本は十分に楽しめるが、
装丁に使われた壁紙の、本物を見ておいてよかったと、つくづく思う。
書物との出会いは、こんなところにもある。

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リチの壁紙、りくの本。(『私の家では何も起こらない』恩田陸)装丁編

恩田陸『私の家では何も起こらない』

装丁買いの1冊。
まずは外観の話が続きますので、内容のほうに興味のある方は、
感想編へお進みください。

******

新刊平積み台で、どこか見覚えのある雰囲気に手が伸びた。
壁紙の真ん中に黒いランセット窓がぽっかりと開いて、
金文字の書名と著者名が浮かぶ。

これが壁紙だと、なぜわかったのか。

ハサミやティーポットなどの線画が重なってはいるが、
地の柄に見覚えがあるのだ。
くすんだオリーブグリーンにツルが伸び、青い帆立貝のような葉が並び、
赤茶けたソラマメがぶら下がっている。

これは《リチ》だ。
目黒区美術館で見た、上野リチの代表作。
かつて日生劇場のレストラン《アクトレス》の内装を手掛けたという
伝説のデザイナーのテキスタイル作品で、《ソラマメ》と名づけられている。
表紙をめくると、見返しにも、配色を変えた同じパターンを使っている。

2009年に京都と目黒で開催された巡回展は、夫である上野伊三郎(建築家)との共同展であったが、
リチの作品は、デザイン好き、テキスタイル好きの女性を中心に、大いに話題を呼んだ。
これを表紙に持ってくるなんて、大胆な。いったいだれの仕事だろう。。。

はたして、ブックデザイン《名久井直子》
そうか。ううーん、さすが。
名久井さんといえば、鈴木成一や祖父江慎と並んで、いまや引っ張りだこのブックデザイナーである。
見返しの次に、ちょっと透け感のある中表紙を挟んで、
版面の真ん中へきゅっと寄せ、おごそかに羽根ペンを戴く、ほぼ真四角の目次。
本文へ入っていくと、天地の余白が広い。
ノンブルは最初からゼロを使い3ケタ表示で、
左ページは数字を分母に、分子に章題を3行分けで載せてある。
このインパクト、この個性。

個性的といえば、祖父江さんの『深泥が丘奇譚』が思い浮かぶ。
あの奇想天外な「さかさま」装丁。

そう、この本もおなじメディアファクトリーの幽ブックスだ。
人によってはあくが強いと感じるかもしれないくらい雰囲気のある本を開くことで、
読者をとことん非日常な《異界》へといざなおうとする編集部の意気込みが伝わってくる。

これは読む前から実に楽しみな一冊だ。

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