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2009年3月

2009年3月17日 (火)

米原万里さんの 生きている歴史講義 (嘘つきアーニャ)

今回は、ブッククロッシングの交流会でわたしのもとへきてくれた本を紹介します。

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』米原万里(角川文庫)

圧倒的なリアリティに打たれました。
衝撃と言ってもいいくらいです。
ここに書かれているのは、年表や教科書からは読み取れない、歴史の本当の姿です。

それぞれ異なる母国をもちながら、親の政治的思想や職業上の立場から、1960年代のプラハで同じソヴィエト学校に通っていた同級生とその家族が、その後どんな人生を歩んだのか、
大人になった米原さんが訪ねるノンフィクションです。

多感な年ごろの微笑ましいエピソード。
環境や文化の違いから腑に落ちなかった出来事。
親や母国の抱える問題と否応なく向き合いながら送った、異国での暮らしをいきいきと描きつつ、
30年もの時を経て米原さんが決行した、かつての友人たちを探す旅のドキュメンタリが見事に構成され、このまま映画のシナリオになるではと思うほどです。

音信が途絶えたことを悔やみながら、
政権崩壊や民族紛争で荒廃し、
なお緊張の続く地域にまで足を踏み入れ、
わずかな手掛かりを頼りに再会を果たした時、
米原さんの中には生きて会えた喜びとともに、
時代の流れの中でどんなふうに過ごしてきたのか
という疑問があふれます。

祖国や、かつて暮らした国を、
そしていまの状況をどう考えているのか。
ときに率直に疑問をぶつけ、
時には喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、
友の変貌ぶりに驚いたり、失望したり、子供のころには気付かなかった複雑な事情に直面したりもします。

米原さんだからこそ書けた、珠玉のノンフィクションだと思います。
愛国心とはなにか。共産主義はどこへ行くのか。
本当の国際化とはどういうことなのか。
ニュースを眺めているだけではわからない
生きている歴史というものを考えさせられます。

ユーモアを交えた息もつかせぬ展開で、
ストーリーだけを追い、一気に読み終えてしまいました。
もういちど、こんどは読みにくいカタカナ名がいっぱいの部分も端折らずに、
中・東欧地図を傍らに置いて、各国の関係性を整理しながら読みなおしてみたいと思います。

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2009年3月14日 (土)

『アンのゆりかご』赤毛のアンの、日本の母!

『赤毛のアン』を読んだことがありますか?

子供向けの本、あるいはアニメで内容は知っていても、
この本が最初に日本語で出版された、村岡花子の訳で読んだという人は、
そう多くないかもしれませんね。
かくいう私もその一人ですが、我が家の本棚には
第1巻が昭和59年・69刷という新潮文庫のシリーズが揃っています。
母の蔵書です。
今回は、その母が絶賛した『アンのゆりかご』を紹介したいと思います。

明治、大正、昭和を生き抜いて、子供や若い女性のための良質な英文学を翻訳し、
私生活では幼い一人息子を病で喪う痛手を負いながらも、夫の大きな愛に支えられて
社会における女性の地位向上にも貢献した村岡花子の一代記。
赤毛のアンの愛読者ならずとも、特に女性にはぜひ読んで欲しい1冊です。

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『アンのゆりかご  村岡花子の生涯』村岡理恵・著 マガジンハウス

花子は生まれこそ貧しかったが、父親が理想に燃えるクリスチャンで、
長女の花子にだけは立派な教育を受けさせたいと、
ミッションスクールの寄宿舎へ編入させる。
環境と教育、そして人との出会い。これが花子の人生を決定づけた。

袖の膨らんだ、すその長いドレスの婦人宣教師に囲まれ、
上流階級のお嬢様たちとともに、言葉づかいから身だしなみ、
礼儀作法までみっちり仕込まれる日々が、
グリーンゲイブルスにやってきたばかりのアンに重なる。

生涯の親友となる柳原白蓮ともここで出会い、
彼女の手引きで佐佐木信綱に短歌を習うこととなる。

この本の面白さは、ひとり村岡花子の人生にとどまらず、
同時代を象徴する多くの女性たちの生き様の片鱗にも触れられる点にもある。

皇族にゆかりのある伯爵令嬢でありながら歌人として活躍し、
25歳も年上の炭鉱王の後添えに入って「筑紫の女王」と呼ばれた柳原白蓮は
のちに若い社会主義者と駆け落ちし、新聞紙上で夫に絶縁状を発表する。

佐佐木信綱に紹介された片山廣子は花子を翻訳文学、児童文学の世界へと導いた。
鉱山事業や紡績会社の運営、さらに女子大の創立にも尽力した実業家・広岡浅子の
勉強会に誘われ、最先端の講義を聴く機会もあった。
花子と同い年でやがて婦人参政権獲得運動へと心血を注いでいく
市川房枝も、ともにこの勉強会に参加していたという。

思えば華々しい時代である。
どんなに頑張っても決められた枠からはみ出すことを許されない男性社会の中で、
男女平等を目指し、互いに練磨し、次の世代を育てていこうとする女性たちの
情熱が、文学界にも経済界にもみなぎっていたことが伝わってくる。

もちろん、花子の家庭のことも細やかに描写されている。
若き日の、実らなかった初恋。
聖書印刷で一代を築いた村岡家の跡取り・儆三との、複雑な事情を抱えた上での結婚。
関東大震災で印刷工場が潰れ、自分の稼ぎで夫を支えなければならなくなった時期。
愛息をわずか6歳で疫痢に奪われた悲しみ。

やがて日本が第二次大戦に参戦し、
外国人宣教師たちは帰国せざるを得なくなる。
絶望の中で、婦人宣教師が花子に託した1冊の本。それこそが、
のちに日本中の少女を虜にする『赤毛のアン』の原書
「アン・オブ・グリーン・ゲイブルス」だった。

英語が敵視される中でひそかに訳しつづけ、
度重なる空襲にあっても守り抜いた原稿は、
戦争が終わってなお、出版に至るまで7年を要した。

生活の基盤たる家庭に、理想と幸福の灯が絶えないことを願い、
おおきなひとつの仕事を成し遂げた女性の人生を、本書は丁寧に伝えてくれる。

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2009年3月 3日 (火)

隠れ美術館・岩下記念館

「岩下の新生姜」って、ご存知ですか?
中村雅俊さんがCMに出演されてたので、
ちょっとは記憶にある方もいると思いますが、
岩下食品は栃木のお漬物会社です。

その岩下が栃木駅の近くに記念館を建てていることは、
地元の人でもあんまり知らないと思います。

毎日その前を通っていても気づかないとか、
あるのは知ってるけど入ったことないという人がほとんどでしょう。
「岩下記念館」だから、会社の歴史とかお漬物博物館的なものを
イメージされている人も多いのではないでしょうか。

会長が2003年に旭日中綬章をいただいた記念に建てたそうで、
2007年には増築し、美術コレクションの常設展示を公開するにいたったとのこと。
いずれにしろ、行ったことないというのはもったいない!
わたしも初めて行ってみて、びっくりしました。
もちろん、会社の歴史を展示したコーナーもありますが、
(これはこれでけっこう面白い、、、)
美術品のコレクションが膨大なのです。

内容はいささか玉石混交なところもあるかもしれません。
とはいえ濱田庄司がある、島岡達三がある、
バーナード・リーチも板谷波山も魯山人もある。
東郷青児あり前田青邸あり、速水御舟に小杉放庵、 横山大観まで。
もちろん地元ならではの琅カン(王偏に干)斎&小カン斎の竹工芸も。
松本哲夫に絹谷幸二なんてのもありましたね。。。
とにかくジャンルも年代も盛りだくさん。

これで入場料は300円(栃木市民なら150円、65歳以上は無料)と、
那須あたりの施設ミュージアムに比べたら格安です。
お近くの方、そうでない方も、ぜひ一度訪れてみてください。

〒328-0034
栃木県栃木市本町1-25
℡:0282-20-5533

開館:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜、年末年始
http://www.iwashita.co.jp/museum/index.html

なお、企画展は展示替えのためお休みになることもありますので、
お出かけの前には念のためお電話か、ホームページでチェックを。

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